“妄想を広げよう会”奉納作品

■月の輝く夜に Version2 ■   地球とメテオとしての月 & 温泉 by オバちゃん



くちびるを重ねるたびに上がっていく心拍数。
厚手の布地越しに伝わるぬくもり。
はやく彼女の素肌に触れたくて、僕の指が焦ってる。

紐を解いたバスローブをそっとはだけさせると、僕の下で彼女の胸が大きく波打つ。
その艶かしさに目眩がする。
しなやかな腕に誘われるまま、首筋に顔を埋めた。


君の白い肌の上、星図を描くようにくちづけを落としていこう。
何万光年、何億光年彼方に離れても必ず君に辿りつけるように、変わらない想いの証を残すんだ…。







少しお喋りだったさっきまでのふたりの間を、今は互いの吐息だけが行き交う。

頬にあった彼の手が首筋を滑って肩と布地の間に入り込むと、もう片方の手で腰を支えられ、するりとバスローブを脱がされた。
私たちを隔てるものには、それが空気でも耐えられない。
彼が自分のローブを脱ぎ捨てる間さえ待ちきれず、急かすようにその首に腕を回した。


私の細胞のひとつひとつ。
その奥深くに眠っていた野性が目覚め始める。
体中に、彼の唇を感じながら…。

すべてを彼の前にさらしていても、羞恥心はない。
彼を迎え入れたいと願う、これがありのままの私。

彼への溢れる想いが呼び水になって、潮が満ちてくる。
こわれものを扱う優しさで私のラインをなぞる、彼の大きな手。
肌に残る、見えない軌跡の発する熱に浮かされ、頭が霞に覆われる。

知らず知らずのうちに身を捩じらせて誘った先。
私の入り口を、遠慮がちに彼の指が彷徨う。


ためらわなくていいのよ。
わかるでしょう?
こんなにも私はあなたを求めてる。

わずかに体を起こした彼の視線が、私を捉えた。
初めて見る動物的な瞳の輝きに、くらりとする。


あなたがずっと隠していた顔ね。
そして心のすみで、私が知りたいと思い続けていた顔…。

私の目を見つめたまま、ゆっくりと彼が入ってくる。
わずかに感じる痛みまでもが、甘やかなため息に変わった。







彼女の体がしなって、いっそう深く僕を受け入れようとしている。

“君が、僕を望んでいる”

それが、僕にとってどんなに嬉しいことかなんて、きっと君にはわからない。


やわらかく、湿った彼女のいちばん奥を探りあてたとき彼女が漏らした声に、僕はもう、コントロールを奪われていた。
揺れる真っ白な乳房、切れぎれのあえぎ声、僕の動きに応える彼女の何もかもが、僕の本性を暴き出す。
ここにいるのは彼女の信頼する相棒ではなく、理性を失ったただの男だ。


スカリー、君が僕のために乱れるさまが、僕を狂わせてゆく…。







絡めた指と指。
耳にかかる熱い息。
体の内側に響き渡る、自分のものとは違う脈動。

燃えるように熱い彼が、私の温度をも限界まで引き上げる。
増してゆく激しさに、うまく呼吸ができない。


あなたに導かれて夜を泳ぐ。
はぐれないように、溺れないように、どうかこの手を離さないで…。


「ああっ!」

私の体が沸点に達したと同時に彼が放たれ、今まで味わったことのない浮遊感に包まれた。







うっすら汗ばんだ彼女の胸。
まだ少し速いその鼓動を聞く僕の髪を、彼女の指が梳いている。

心地よさに眠りに落ちそうになるのを押しとどめたのは、幸せな状況に不慣れなもうひとりの自分だ。
今、僕が抱いているのは、間違いなく彼女なのだと確かめたくて、顔を上げた。

カーテンの隙間から射す月明かりを吸い込んで、彼女の瞳の色が深みを増している。
その中に、遠い過去の記憶を見た気がした。
いや、遥かな未来の夢か…。

宵の空。
深海。
生命を育む地球。
青い青いこの星…。


僕は囚われの月だ。
君の引力から逃れられない…。







ふいに顔を上げた彼の表情があまりに無垢に見えたから、愛おしさで胸がいっぱいになった。
思わず彼の頬に伸ばした手を、捕まえられた。
そのまま掌にキスを受ける。
腕を伝って肩から首へと上ってくる柔らかな感触。
最後に訪れた唇に深く入り込んで、私の残り火を煽る。
無意識に立てようとした膝が彼の腿をかすめたとき、再びきつく抱きしめられた。


月だけが見ている。
夜はまだ、終わらない。







扉が開く直前に、繋いだ手をほどかれた。
エレベーターボックスから一歩踏み出した彼女は、もういつものスカリーだ。


ゆうべの君を、まさかワインのせいにするつもりじゃないだろう?

少しばかり不安になった僕に、彼女は気がついていない。
僕の横を颯爽と、前だけ見つめてホールに向かう。


「あなたのお友達じゃない?」

「え?」

向こうから、交代の時間を迎えたらしい、昨夜のフロントクロークが歩いて来る。

「お、お友達って…」

「あら、昨日はずいぶん親しげに見えたけど?」

普段はてんで鈍いくせに、たまに発揮される彼女の勘は侮れない。
フロントでの密約を見透していたかのような口ぶりだ。

顔にパニックの表情を貼りつけているはずの僕を見つけて、彼が微笑みかけてきた。
すれ違いざまに小さなウィンク。

「ロマンティックな夜でしたか?」

思わず、右手で顔を覆った。
本人は囁いたつもりらしいが、…そんなでかい声じゃ、彼女にも聞こえるんだよ。

指の間から覗き見たスカリーは胸の前で腕を組み、僕を見上げていた。
昨日と同じ“魔のワンピース”からこぼれそうな、豊かな胸。
そこに、赤く浮かび上がっている夕べの約束。
突然蘇った数時間前の記憶が僕から言葉を奪って、言い訳すら出てこない。


「計略なんか必要なかったのに…」

素直に誘ってくれれば良かったのよと、そのセリフは意外だけれど、僕への愛の告白に聞こえるなんて言ったら、彼女は怒るかな…。



End




2001/10

 



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